「一周すれば200m。その半分、100mを走ろう。」
痩せた男が、弱々しく掠れた声で言った。
「100m走る間に、死の三つの障害物。」
普通の男が、堂々とハキハキとした声で言った。
「1番にゴールした者が、二人の保険金という大金を手にする。」
太った男が、重々しく苦しそうな声で言った。
全員納得。
死の障害物競走のスタート。
スタートしてから4秒。
痩せた男が第一の障害物に捕まった。
不気味で巨大な怪鳥が飛んできて
あちこちを突っ突かれ真っ赤になった。
スタートしてから8秒。
太った男が第二の障害物に捕まった。
百歳を越えているであろう、気味の悪い老婆の姿をした魔女に
全身をぶつ切りにされ、美味しいシチューにされた。
スタートしてから15秒。
第三の、赤黒い触手をもったドロドロした障害物は空腹で死んだ。
なぜかと言うと、普通の男がやって来なかったからだ。
だが、三人の中で一番足の速い普通の男はゴールしていた。
なぜ…?
普通の男は100mをちゃんと走ったのだ。
逆方向に。
そうして、普通の男は一生遊んで暮らせる程の大金を手に入れた。
だが、普通の男は最も嫌な障害物に捕まっていたのだ。
大金を手にした者は、人が変わっていくという落とし穴に。
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